薬剤業務

薬剤部

医薬品安全管理

薬剤師は、院内全体の医薬品の安全使用の責を担っています。

当院では患者さんに安全な医療を提供できるようにリスク管理に力を入れています。薬剤部内では、薬剤師が調剤過誤を起こさないように様々な工夫を行っています。電子カルテで医師が指示を出すときに注意する処方へのアラートから始まり、散薬調剤時の監査システムの導入、バーコードチェックを用いた取り揃え間違い防止など、人の力だけでは防ぎきれない間違いの対策にシステムを導入しています。

病院内全体に向けては、院内LANを利用して他の医療職種に対し、「注意の必要な薬品一覧」「注射薬配合変化表」や医薬品添付文書の改訂などの情報の提供を行っています。医師の処方を支援するため、電子カルテで配合禁忌薬品や常用量超過時の注意喚起の表示などに、薬剤師自ら積極的に携わっています。医療者間の顔が見える関係を築いている当院では現場からの声を基に、医療現場で注射薬を使用する看護師に対して、「投与速度を確認!」、「フィルター禁」、「血管外漏出に注意!」など薬剤ごとに注意事項を伝えたり、処方箋に記載することで事故防止に努めています。

麻薬管理

医療用麻薬の施用・管理は医療従事者にとって最も神経を使う業務の一つです。

当院でも麻薬製剤の管理には、麻薬伝票の整理、台帳への記入、届け出書類の作成、在庫の確認などに多大な労力と時間を要していましたが、電子カルテに連動した、バーコードを読みとるだけで払い出し・返却の記録、在庫の確認、各種帳票類および提出用書類の作成等が可能となるシステムを導入し運用を行っています。

また近年のがん化学療法の著しい進歩で、がん患者さんの生存期間は延長しています。患者さんの旅行などでの海外への麻薬製剤持ち出しに関する制約に対し医師に助言し、患者さんの生活の質向上についても麻薬管理の専門家としてアドバイスを送っています。

調剤業務

処方箋調剤

当院は外来患者さんの薬は院外処方をお願いしております。近年は地域の医療機関や保険薬局と一体となった地域医療を推進しており、患者さんにもかかりつけ薬局をお持ちになり、「お薬手帳」を携帯されることをお勧めしています。

病院薬剤師はおもに入院患者さんの薬を中心に、医師の処方をもとに調剤業務を行っていますが、ここでも薬剤師が目を配っています。調剤は以下のステップで行い、患者さんのもとに必要なお薬を提供します。

1. 処方監査(服用量、服用方法、相互作用(飲み合わせ)、投与日数の確認

2. 調剤

疑義等があれば、処方医に問い合わせします
患者さんにあわせ、1包化や粉砕を行います。

3. 監査

ここでも、重複の確認や量のチェックを行います。バーコードを利用して取り違え防止に努めています。

注射薬調剤

注射室では、患者さんに処方された注射薬を処方毎にセットして、各部署へ供給します。令和4年からは自動注射薬払出機を導入し、日ごとの入院患者さんの薬を病棟ごとに調剤しています。機械では確認が難しい投与量・経路・速度・配合変化などは薬剤師の目でチェックします。

注射処方箋によらず、現場で直接使用される外来・病棟・手術室・救急カート・災害対策用医薬品など現場に配置している注射薬は、定期的に点検し、有効期限・品質の確認を行います。

特定生物由来製品(主にヒトの血液や組織に由来する原料又は材料を用いた製品)の安全対策のため、製造番号の記録管理は薬剤部で行い、製剤の不具合が発生した場合でも迅速に特定できる体制をとっています。

医薬品情報管理業務

医薬品情報管理

医薬品の添付文書を始め、製薬企業の添付文書集、インタビューフォーム、医療情報誌、医療関連雑誌・図書等の管理を行い、各医療従事者への迅速で正確な情報伝達に努めています。

院内にはイントラネットが整備されており、院内職員には毎週改訂医薬品情報を配信するとともに、薬剤師の視点での情報コンテンツの整備に努めています。

薬事委員会事務局

医療は日進月歩で進化し、医薬品も絶えず新しい薬が登場してきます。採用を審議する薬事委員会での資料の作成・管理として、新規採用薬品や使用中止薬品、ジェネリック薬への変更など、委員会で検討する新規採用薬品に関する情報やその対抗薬品との比較資料を作成しています。

薬事委員会へは薬剤師3名(副委員長1名、委員2名)が参加しています。

当院では年3回開催しており、薬剤部で作成した資料を基に、円滑に議論が審議されるよう工夫しています。

プレアボイド

日本病院薬剤師会へ、薬剤師が薬物療法に直接関与し、薬学的患者ケアを実践して患者さんの不利益(副作用、相互作用、治療効果不十分など)を回避あるいは軽減した事例を"プレアボイド"として報告をしています。

医薬品の供給と調剤という薬剤師の使命のうち、調剤の概念は処方監査と医薬品の調製に留まらず服薬指導へと拡大し、さらに医薬品の適正使用推進と医薬品を使用した患者さんの安全管理(副作用・相互作用回避)へと発展してきています。院内で使用される医薬品のあらゆる局面に薬剤師の職能が役に立てた事例を、病院のみならず社会に報告する"プレアボイド"を当院では推し進めています。

抗がん剤治療への関与

がん治療は手術、放射線、抗がん剤治療が主体となりますが、特に抗がん剤治療には薬剤師が多くの場面で関与しています。

レジメン管理

レジメンとは、薬の種類や量、方法などを時系列で示した治療計画書で、過剰投与や重複投与による医療事故を防ぐだけでなく、治療の標準化や業務の効率化にもつながるものです。レジメンは抗がん剤の投与計画を示す「プロトコール」と異なり、制吐剤や輸液も含めた全体計画書です。院内には化学療法の適正かつ円滑な実施を図るため、化学療法レジメン検討委員会が設置されています。委員は医師12名、薬剤師4名(がん専門薬剤師4名)、看護師2名(内、がん化学療法認定看護師1名)、栄養士1名で構成されています。

薬剤部は化学療法レジメン検討委員会の事務局を行っています。各診療科の医師が「癌化学療法レジメン登録願」を提出し、薬剤部でまず検討・資料作成を行い、それを委員会で検討します。委員会で承認されたのち、薬剤部にて電子カルテへレジメン登録を行います。又、処方される全ての抗癌剤の処方監査(投与量・投与間隔・休薬期間などのチェック)を薬剤部にて行い、抗癌剤治療が適正で安全に施行されるよう寄与しています。

抗がん剤の調製

入院・外来の抗癌剤は薬剤部で調製しています。抗癌剤は細胞毒性や催奇性があり、取り扱いに慎重性が求められます。

当院では通院治療センターの調製室内で、ガウン・手袋・マスク・キャップなどを着用して調製しています。専門的知識(薬剤ごとの特性、保管方法、溶解方法など)が必要であり、正しい調製手技を習得した薬剤師が質の高い医療を提供出来るよう切磋琢磨しながら日々努力しています。

外来化学療法室での活動

これまで抗がん剤治療は入院で行うのが一般的でしたが、医療の進歩(副作用の支持療法などを含む)によって、外来でも安全に治療が出来るようになりました。

当院では平成17年4月より外来化学療法室を設置し、各臓器を専門とする診療科と連絡を取りながら治療を行ってきました。令和4年の移転に伴い通院治療センターとしてベッドは18床に増え、外来でのがん治療体制はさらに発展しました。

薬剤師も平成18年11月よりがん専門薬剤師2名により外来化学療法室での治療モニタリングおよび前投薬の調製を開始しました。ベッドサイドで薬剤師が抗がん剤の効果や投与スケジュールのほか副作用やその対策についても説明させて頂くことで、外来通院でも安心して治療を受けて頂けるよう努めています。令和4年にはがん専門薬剤師4名、外来がん治療認定薬剤師2名と専門性が高い薬剤師も増え、さらに支援体制を充実させています。また近隣の保険薬局にも治療内容を共有し、地域での安全な抗がん剤治療の支援体制拡充に努めています。

製剤業務

市販されていないが治療上不可欠な剤形の薬剤を、薬学的視点から院内で調製を行います。院内の倫理委員会で承認をとり、患者さんの同意を頂く場合もあります。

特殊製剤

国内では販売されていない薬剤(特殊製剤)を特定の患者さんに治療上不可欠な場合に使用する際、医師からの依頼により無菌室のクリーンベンチで調製しています。手術中に使用する注射剤や点眼薬、アレルギー症状の重篤度を確認する注射剤などがあります。

TPN(中心静脈栄養)製剤調製

栄養管理法として、消化管が安全に使用出来る場合は、生理的な投与経路である経腸栄養が第一選択となります。

経腸栄養が不可能か、経腸栄養を一時中止したほうが治療上有益な場合に中心静脈栄養(TPN)が行われます。中心静脈から投与されるため、無菌的に調製する必要があり、薬剤部にて無菌室のクリーンベンチで患者さんの状態に合わせて調製しています。

教育・研修活動

研修会・発表

患者さんの薬物療法に役立つために、薬剤師が最新かつ多くの情報を取り入れておく必要があります。

当薬剤部でも医師や薬品開発の専門家を招き、教育を仰ぐなど情報交換を行っています。また、学会・学術講演会・研修会への参加も奨励しています。

各自の研究・調査の結果は学会や学術講演会などで発表し、また論文としても投稿しレベルアップをはかっています。

学生実習

2006年度から薬学教育は6年制に移行しました。当院でも5年次の薬学生を年3回受け入れて、実務実習を行っています。

当院での実習は臨床現場の実体験をコアカリキュラムに沿って行うとともに、実社会に出て必要となる対人関係の構築も主眼におきつつ、11週間の実習をすすめています。

ポリファーマシー解消への活動

「ポリファーマシー」は、「Poly」と「Pharmacy」という単語を組み合わせた、高齢者が多くの薬を服用することにより副作用などの有害事象を起こす問題を提起した言葉です。もちろん治療上多くの薬の併用が必要な場合はあります。 しかし高齢になると、多くの薬を飲むことが多くなり、特に複数の医療機関を受診されている患者さんでは、同じような薬を処方されていることがしばしば見受けられます。「ポリファーマシー」は医療費を圧迫しており、国の解決すべき問題ともされています。

当院では入院されてくる患者さんの常用薬について複数の薬剤師でカンファレンスを行い、効果が重複していたり今の症状に合わない薬を医師に報告しています。さらに病棟の看護師から得られた患者さんの症状や、日常生活動作についての情報を生かしながら「ポリファーマシー」の解消に努めています。