5)前立腺癌

泌尿器・前立腺・腎臓・副腎外科

食生活などの欧米化とともに、本邦でも急増しており、現在泌尿器科領域では最も頻度の高い男性泌尿器癌の一つです。男性10万人の人口当たり10人前後の発生頻度です。血液検査にてPSA(前立腺特異抗原)を測定することにより、早期の前立腺癌が発見可能となりました。ただ、前立腺肥大症や前立腺炎でもPSAが高値となりますので、確定診断のためには前立腺の組織検査が必要です。初期治療は手術療法、放射線療法、内分泌療法が3本柱ですが、どの治療法を選択するかは年齢、病期、癌の悪性度、全身状態、患者さんの希望など患者さんと相談して決定します。

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近年、前立腺癌の患者さんが急増しています。当科でも前立腺癌腫瘍マーカーの血液検査(PSA:前立腺特異抗原)が高値(正常値4.0ng/ml以下)のため前立腺生検(組織検査)を受けられる患者さんが年間250?300名おられます。そのうち約50%の方から前立腺癌が検出されています。当科では過去10年間に1000名以上の前立腺癌の患者さんに対する手術を実施しており、国内でも有数の症例数です。

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前立腺生検(組織検査)で前立腺癌が確定した後、病気の進行度を判定し前立腺に限局した癌(転移のない症例)に対しては根治的治療を積極的に行っています。

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手術療法

現在、当科では全例に対しロボット支援下前立腺全摘除術を施行しております。一般に前立腺に限局している癌が治療の適応となり、2020年度のわれわれの実績では、輸血(同種血)は0%、直腸損傷などの重篤な術中合併症は0%、手術から退院までの日数は7日(中央値)でした。

腹部を切開せず、お腹に小さな穴をあけて、腹腔鏡を用いてすべてお腹の中で行い、臍から前立腺を摘出します。その後、膀胱と尿道を腹腔鏡下に吻合します。ダヴィンチXiによる3Dハイビジョンによる立体的な視野とロボットアームによる安定した精密な手術が可能です。従来の開腹手術では難しかった手術操作が確実に行えるため、極めて精度の高い手術手技が可能です。当科では十分な経験を有し、手術による合併症を最小限に抑える手技を行い男性性機能温存に対する勃起神経温存術式も積極的に行っています。最近、当科では手術後に問題となる尿失禁(尿漏れ)に対し、勃起神経温存を行うことで早期に尿失禁が回復することを明らかにし、その適応を可能な限り拡大しています。

放射線療法

手術と同様、前立腺に限局している癌や前立腺癌根治術後に局所再発が疑われる場合は放射線療法の対象となり、癌の進行度・悪性度などによって内分泌療法を併用します。最近では三次元原体照射や強度変調放射線治療など、標的部位のみに集中させて高い線量を照射することが可能となり以前に比較して合併症が格段に少なくなっています。

放射線療法

内分泌療法

前立腺は男性のみに存在します。前立腺癌の増殖は男性ホルモンに依存しており、精巣から分泌される男性ホルモンを遮断することで、癌細胞が死滅、あるいは増殖が停止します。これが内分泌療法であり、いくつかの方法があります。

①LH-RHアナログ

1ヶ月、3ヶ月、あるいは6ヶ月に1回の皮下注射で去勢術と同じ内分泌環境(男性ホルモンの遮断)が得られる注射です。

②抗アンドロゲン剤

男性ホルモンが男性ホルモン受容体に結合するのを阻害する薬剤です。

③アンドロゲン完全遮断療法

実際には、精巣以外に副腎からも少量の男性ホルモンが産生されており、これが癌を活性化させることがあります。そこでLH-RH アナログと抗アンドロゲン剤を併用することによって、完全に男性ホルモンを遮断する方法が考案され、実際の臨床では最も広く行われています。

④去勢術(両側精巣摘除術)

両側の精巣を摘除しますが、最近では以下の皮下注射剤が普及し、施行するケースはほとんどありません。

⑤女性ホルモン剤

男性ホルモン産生抑制だけでなく、癌細胞に対する直接作用もあり、古くから使用されてきましたが、血栓症などの副作用に注意が必要です。

⑥ステロイド剤

①〜⑤までの内分泌療法が無効となった状態でも、効果のある場合があります。

化学療法

内分泌療法に反応しなくなった去勢抵抗性前立腺癌に対し「ドセタキセル」による治療を行っています。さらに、「ドセタキセル」が無効になった症例に対し「カバジタキセル」の治療も多数症例に行っています。

去勢抵抗性前立腺癌に対する新規治療薬

当科では通常の内分泌療法に反応しなくなった場合や化学療法に反応しなくなった場合に、新規経口薬剤(エンザルタミド、アビラテロン、アパルタミド、ダロルタミドなど)による治療法を多数の症例に対し行っています。

待機療法

悪性度の低い癌、腫瘍量が少なく予後が良好と予測される症例は臨床的に治療意義の低い前立腺癌と考えられるため、症状が出現してから治療を行うという方法です。過剰治療を避ける目的でPSAを測定しながら無治療で経過観察を行いますが、必要であれば癌の増悪を検査(再生検)したり、根治療法に切り替えます(積極的待機療法)。これらの治療法は限られた症例に対して適応としています。