4)膀胱癌

泌尿器・前立腺・腎臓・副腎外科

主に痛みのない血尿(無症候性肉眼的血尿)を主訴に受診されます。人口10万人に8〜10人発生します。膀胱癌は、膀胱の粘膜から発生する癌で、多発する傾向があり、癌細胞が膀胱の筋肉の層まで達しているかどうかで筋層非浸潤性癌と筋層浸潤性癌に分け、大きく治療法が異なります。筋層非浸潤性癌では尿道から内視鏡を挿入して腫瘍を切除する経尿道的手術を行いますが、手術後、膀胱内に再発を来しやすい性質を持ちます(術後2年以内に約50%の患者さんに再発します)。そのため、手術後も膀胱内視鏡検査を定期的(3ヶ月毎)に行い、再発の有無を確認しなければなりません。また、粘膜の中にがん細胞が潜んでいる上皮内癌や多発する筋層非浸潤性癌に対してはBCG(弱毒結核菌)による膀胱内注入療法(後述)も行っています。一方、癌細胞が膀胱の筋肉の層まで浸潤する筋層浸潤性癌では根治性を得るために膀胱を全摘除する必要があり、同時に尿路を再建する手術(尿路変向術)を行わなければなりません。リンパ節や他の臓器に転移している場合は抗癌剤や放射線療法を組み合わせた集学的な治療も行っています。

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手術療法

①経尿道的手術(TUR-BT)

尿道から内視鏡を挿入し、内視鏡の先端にある電気メスで腫瘍を切除する方法でお腹は切りません。がん細胞が筋層に浸潤していない筋層非浸潤性膀胱癌に対して行い、2020年度は年間211例の患者さんに対して行いました。われわれの実績では手術から退院までの日数は2日~4日です。

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近年食道や大腸といった消化管癌の早期発見に有用とされているNBI(Narrow Band Imaging)での観察が、膀胱癌の診断においても有用であることが証明されました。このNBIは、生体内への光の深達度が波長によって違うことを利用し、深達度の浅い2種類の短い波長の光のみを抽出する特殊なフィルターを用いたシステムで表層の粘膜肥厚や癌の増殖に伴う血管新生の様子を観察しやすいのが特徴です。当科では膀胱尿道ファイバースコープでの観察や経尿道的手術(TUR-BT)の際にNBIシステムを併用し、上皮内癌などこれまで診断が困難であった病変でも、より確実に病変部位の同定が行えるようになりました。

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②ロボット支援下膀胱全摘除術

筋層に浸潤した進行期癌に行われる根治手術で膀胱を周囲臓器(男性であれば前立腺・精嚢腺、女性であれば子宮・卵巣)と共に摘出します。開腹手術は腹部に大きな皮膚切開が必要ですが、ロボット支援下膀胱全摘除術はお腹に小さな穴をあけてお腹の中で開腹手術と同じ手術を行います。一般的に行われている開腹手術に比較し明らかに出血量が少なく、術後回復が早いため患者さんに対し負担が少ないのが特徴です。膀胱を摘除するので、尿を体外へ排出するための尿路変向術(新しく尿を体の外に出す手術:後述)が必要となります。

放射線療法

筋層浸潤性癌でありながら、膀胱全摘ができない場合(全身状態の悪い場合や患者さんの希望)に施行されます。放射線療法に化学療法(抗癌剤治療)を併用する場合もあります。

薬物療法

①膀胱内注入療法

表在癌に対して薬剤を膀胱内に注入して治療する方法です。代表的な薬剤にはBCG(弱毒結核菌)があり、効果が70~80%にありますが、副作用には注意が必要です。表在性膀胱癌の再発に対する効果も高いため再発予防に対する維持療法も現在多数の症例で行っています。

②化学療法

転移を有する手術不能例には、抗癌剤の全身投与(点滴の治療)を行い、放射線療法を併用することもあります。また、浸潤性膀胱癌に対し膀胱全摘除術の術前・術後の補助療法として使用する場合もあります。吐き気や食欲不振、脱毛、白血球減少、貧血、などの副作用がありますが、現在行っているGC療法(ジェムザール+シスプラチン)という治療法では副作用が軽減しています。

③新規免疫治療薬 immuno-oncology drug(I-O drug)

摘除不能な膀胱癌や転移性膀胱癌に対し、がんに対する免疫によりがんの進行を抑える治療として免疫チェックポイント阻害薬であるキートルーダ(ペンブロリズマブ)による新規治療も積極的に行なっています。

これまでは治療が難しかった膀胱がんにおいてさまざまな最先端医療も可能です。

尿路変向について

膀胱全摘がなされた場合、尿を膀胱・尿道以外から出す必要があり(これを尿路変向と言います)、新膀胱形成術(小腸で新膀胱を作成し、摘出した膀胱の代わりに尿道とつなぐ方法で集尿器は不要)、回腸導管造設術(小腸を直接皮膚に出す方法で集尿器が必要)、尿管皮膚造設術(尿管を直接皮膚に出す方法で集尿器が必要)などがあります。当科ではいずれの尿路変更術もこれまでに多数の症例を経験しており対応が可能です。どのような尿路変更を行うかについては、ご本人のご希望、年齢や全身状態、病変の部位などから総合的に判断しています。

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