難治性逆流性食道炎
難治性逆流性食道炎に対する内視鏡治療
逆流性食道炎(GERD)とは
― 病態と基本的な治療方針**
逆流性食道炎は、胃酸や胃内容物が食道へ逆流することで、胸やけ・呑酸・のどの違和感・慢性咳などを生じる病気です。
多くは、生活習慣の改善や胃酸を抑える薬(PPI・P-CAB)で良好にコントロールできます。
しかし、胃と食道の境目(食道胃接合部:EGJ)が構造的にゆるんでいるタイプでは、薬剤で胃酸を抑えても逆流そのものを止めることがむずかしく、症状が残る場合があります。
難治性逆流性食道炎とは
薬を適切に服用しても症状が改善しない場合、難治性逆流性食道炎と呼ばれます。
難治となる背景には以下が関係します。
- LES(下部食道括約筋)機能の低下
- 食道裂孔ヘルニア
- EGJ の開大
- 胆汁など非酸性逆流
- 食道知覚過敏
とくに EGJ の構造的な開大を伴うタイプは薬では改善が得られにくいことが知られています。
従来の治療
薬物療法に反応しない患者さんに対しては、長年、外科的噴門形成術(Nissen、Toupet 法など)が標準治療でした。
逆流防止効果は高いものの、
- 全身麻酔
- 入院
- ガス貯留症候群、つかえ感などの術後症状
といった負担があり、「もう少し低侵襲な治療を希望する」という声は少なくありませんでした。
このニーズに応える形で、内視鏡による逆流防止術が発展してきました。
新しい内視鏡治療:内視鏡的逆流防止粘膜切除術(Anti-Reflux Mucosectomy: ARMS)
ARMSは、内視鏡で
〈噴門部の粘膜を帯状に切除し、治癒過程の瘢痕収縮によって噴門部を引き締める〉
という、日本発の逆流防止内視鏡治療です。
ARMSの特徴は、
- 構造的に開大した噴門を"再び締める"という根本的アプローチ
- 外科手術より低侵襲
- 内視鏡治療としては確立したエビデンス
という点です。
ARMS から発展した新しい治療
ARMS の概念と成果をもとに、さらなる低侵襲化や逆流防止効果の強化を目的とした発展型手技が登場しています。
ARMA(Anti-Reflux Mucosal Ablation)
- 粘膜を切除せず、APC などで焼灼して人工潰瘍を作る方法です。
- 切除しない分、ARMSより低侵襲とされています。
ARM-P(Anti-Reflux Mucosectomy - Plication)
- ARMS の粘膜切除に加え、縫縮を追加し、噴門部の逆流防止機能を補強することを狙った方法です。
ARM-PV(Anti-Reflux Mucosectomy - Partial Valve)
- 噴門部の一部に**部分的な逆流防止弁(valve)を再形成する、新しい概念の治療です。
- 外科手術の噴門形成術に近い考え方を内視鏡で実現しようとする試み。

ARMS の治療効果
ARMS の治療成績は多くの研究で良好とされています。
- 症状改善率:70〜90%
- PPI中止または減量:40〜60%
- 内視鏡的改善(食道炎の改善):50〜80%
- 重篤な合併症はまれ
薬だけでは改善が難しい患者さんに対し、低侵襲で現実的な治療選択肢となっています。
当院での適応判断について
適応となりやすいのは以下のような方です。
- PPIを十分に内服しても症状が残る
- 噴門部の開大が逆流の主因と考えられる
- 外科手術は避けたい、または適応がない
一方、
- 大きな食道裂孔ヘルニア
- 著明な食道運動障害
などでは ARMS の適応が限られます。
当院では内視鏡所見、症状、必要に応じて食道機能検査を行い、丁寧に適応を判断しています。
ご相談・お問い合わせ
患者さんへ
胸やけや逆流症状でお悩みの方、薬を飲んでも改善しない方は、まず かかりつけ医にご相談ください。
必要に応じて当院へご紹介いただき、ARMS が適しているかどうかを評価します。
医療機関の先生方へ
紹介の際には、
- PPI / P-CAB の治療内容
- 症状の経過
- 内視鏡所見
- 食道裂孔ヘルニアの有無
をご共有いただけますと、診療がスムーズです。
適応に迷う症例なども、どうぞお気軽にご相談ください。