内視鏡診断・治療 ~早期胃がん~

内視鏡内科

早期胃がんに対する内視鏡治療の適応とESD

 早期胃がんに対する内視鏡治療は局所的な治療なので、胃壁外のリンパ節に転移がない病変が対象となります。具体的には「潰瘍のない、あるいは3cm以下で潰瘍のある分化型粘膜内がん、潰瘍のない2cm以下の未分化型粘膜内がん」が胃がん治療ガイドラインの内視鏡治療の絶対適応病変です。

 当院では2003年以降、内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection : ESD)を開始し、2022年5月現在2,698件のESDを行ってきましたが、ESDの登場により病変の大きさに制限なく一括切除(病変をひとまとめにして切除すること)ができるようになりました。

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ESDイラスト説明

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胃ESDの実際

 一括切除された標本により病理所見を詳細に評価することができるため、そのがんが肉眼で見た範囲にも組織の切断面にも、がん細胞が残っていないかどうか、リンパ節へ転移する可能性がないと診断されるかどうかだけでなく、根治基準を満たさない場合もリンパ節転移率が何%くらいのがんなのか予測を立てることができるため、患者さん一人ひとりの基礎疾患や年齢を考慮し、外科手術を行うかどうか判断できるようになります。

早期胃がんに対する胃ESDの治療成績

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 当院で2003年9月から2022年5月の期間に胃ESDを施行した早期胃癌・胃腺腫2698例の治療成績を示します。

一括切除率
(病変が一括で切除された症例)
99.2%(2,677/2,698件)
完全一括切除率
(病変が一括切除され、かつ切除断端が院生の症例)
94.2%(2,541/2,698件)
治癒切除率
(病変が完全一括切除され、かつ適応拡大条件に一致した症例)
88.5%(2,388/2,698件)
治療時間中央値
(切開開始から剥離修了までの切除時間)
60分
偶発症 後出血 2.5%(68/2,698件)
穿孔*  0.5%(14/2,698件)

*穿孔(せんこう)・・・管腔臓器の壁に全層性の穴が開くこと,あるいは開いた状態

 術前精査として通常の内視鏡診断に追加して、NBI併用拡大内視鏡、超音波内視鏡などを行い、内視鏡治療適応の病変を正確に判断するとともに、内視鏡医・外科医・病理医が合同で毎週カンファレンス(検討会)を行うことで、各科で連携の取れたチーム医療が行えるようにしています。

 また、前述の豊富なESD経験を活かし、広範囲病変や線維化病変などの高難易度症例に対しても、術前検査で治癒切除となる可能性があるものに関しては積極的に取り組むようにしています。

安佐地区胃がんESD/EMR地域連携クリニカルパス

 胃がんは多発することも多く、胃がんの10~20%に同時期に複数の病変を認めます(同時性がん)。また、胃がんを内視鏡治療した後の経過を見ていくと、毎年約3%に新しいがんが見つかります(異時性がん)。つまり、胃がんを治療した後のサーベイランス(定期検査)がとても重要になるわけですが、当院だけで全患者をフォローすることは現実的ではありません。

 そこで、早期胃がんに対して内視鏡治療を行った方を対象に、かかりつけ医と当院で連携して内視鏡治療後5年間フォローしていく「安佐地区胃がんEDS/EMR地域連携クリニカルパス」を適応しています。かかりつけ医の安心感と当院での専門性の両者を合わせ持ち、また二重のチェック体制をとることによりフォロー漏れを防ぐ役目も果たしています。

胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡・内視鏡合同手術(LECS)

 胃の粘膜の下にできる腫瘍を「胃粘膜下腫瘍」と呼びます。胃粘膜下腫瘍には、良性のものから悪性のものまでさまざまな種類の腫瘍が含まれていますが、その一つである消化管間質腫瘍(Gastrointestinal stromal tumor:GIST)や、大きさ2cm以上の粘膜下腫瘍は手術治療が薦められます。当院では、胃粘膜下腫瘍する切除法として、腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除 (LECS: Laparoscopy and Endoscopy Cooperative Surgery)という、「内視鏡医による内視鏡手術」と「外科医による腹腔鏡下胃局所手術」を協力して行う合同手術を積極的に取り入れています。胃の内側から切除を開始することで、切除する範囲が最低限となり、手術後の胃の変形が最小限で済み、胃の機能低下も少ない低侵襲な術式となります。

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LECSの実際