肝胆膵外科

ご挨拶

肝胆膵外科では、肝臓・胆道(胆管、胆嚢、十二指腸乳頭部)・膵臓・脾臓・十二指腸に発生する様々な疾患に対する外科治療(主に手術)を、各種診療ガイドラインに準拠してチーム医療体制で専門的に行っています。

肝胆膵領域の治療においては、高度な専門性を要する手術・処置が多いことから、当院では、毎週 当科・消化器内科(肝臓内科、胆膵内科)・放射線科の合同カンファレンスを行っています。このカンファレンスで症例を一例ずつ詳細に検討し、外科からの視点・内科からの視点・放射線科からの視点で分析し、治療方針を考えています。

治療の方法には、手術・化学療法(抗がん剤治療)・内視鏡検査/処置(膵胆管造影検査、内視鏡下組織生検、内視鏡的胆管結石除去、内視鏡的膵管/胆道ドレナージ など)・IVR(Interventional radiology:放射線診断技術の治療的応用(カテーテル治療、CTガイド下膿瘍ドレナージ))などがあり、患者様の状態や病巣の状況に応じて、最も安全で治療効果の高い治療を選択することを心がけています。

(肝胆膵外科主任部長 小橋俊彦)

当科で対応している主な疾患

肝臓

原発性肝癌(肝細胞癌、肝内胆管癌など)、転移性肝腫瘍、その他の肝腫瘍(良性/悪性)、

肝嚢胞、肝内結石

胆道

胆管癌、胆嚢癌、乳頭部癌、胆嚢結石症、急性胆嚢炎、胆嚢ポリープ、膵胆管合流異常症

膵臓

膵癌、膵IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍)、膵嚢胞性腫瘍(SCN、MCNなど)、膵NET(膵神経内分泌腫瘍)、その他の膵腫瘍(良性/悪性)、急性/慢性膵炎

脾臓

脾機能亢進症、食道・胃静脈瘤(門脈圧亢進症)

十二指腸

十二指腸癌、十二指腸NET(十二指腸神経内分泌腫瘍)、十二指腸GIST

肝・胆・膵の主な疾患に対する治療

原発性肝がん

原発性肝がん(主に肝細胞癌(全体の91%程度))ですが、日本肝癌研究会による原発性肝癌追跡調査報告によると、様々な治療法の中で手術(肝切除)が全体の約4割強を占めています。

肝細胞癌の背景疾患としてこれまでウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)が約8割を占めていましたが、近年 非B非C型(いわゆるウイルス性肝炎以外による肝障害)なかでも非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)に関連する症例が増加傾向にあります。これらは生活習慣病(メタボリック症候群)などとの関連性が報告されており、高血圧・糖尿病などを合併し、BMI高値(肥満傾向)の症例が多くみられます。

転移性肝がん

転移性肝がん(ほとんどは大腸癌の肝転移)では、適応症例であれば化学療法と併せて手術(肝切除)を介入することで、約4割近い症例に根治を期待することができるようになりました。

大腸癌以外でも治療効果が得られる可能性があると判断した場合は、肝切除(肝臓の病の摘出)を行っています。その際は、原発巣治療を担当しているチームや他科と協同して手術にあたります。

当科における肝切除は、CUSA(超音波破砕吸引装置)による肝切離と水滴下式バイポーラによる焼灼止血の手技を用いています。術前の各種画像検査(CT、MRI、PET-CTなど)と肝予備能評価(ICG試験、アシアロシンチ)、コンピューター解析による術前画像シミュレーションで肝切除範囲の詳細な検討を行うことにより、術後合併症を可能な限り軽減するよう努めています。

また、腫瘍の場所や大きさ・肝切除の範囲によっては、腹腔鏡下肝切除を導入しており、創部の負担を軽減することで術後をより安楽に過ごせるようにも務めています。

膵癌・胆道癌

膵癌・胆道癌ですが、この領域の癌は消化器癌の中でも難治性癌として知られています。膵癌・胆道癌は自覚症状に乏しく早期発見が困難な癌と言われ、膵癌では切除可能な症例が全体の約1/3程度です。近年、新規抗がん剤の開発により、徐々に予後の改善が見られ始めてはいるものの、いまだ予後の顕著な改善には至っていません。

手術については、膵癌は膵切除(膵頭十二指腸切除、膵体尾部切除など)、胆道癌は胆道再建を伴う肝切除、膵頭十二指腸切除などを主に行います。手術前に消化器内科での詳細な検査(超音波内視鏡(EUS)、内視鏡的逆行性膵胆管造影(ERCP)、管腔内超音波検査(IDUS)など)によって、各種画像検査(超音波検査、CT検査、MRI検査など)と併せて腫瘍進展範囲を詳細に検討し、手術術式・切除範囲などを慎重に決定しています。

また、膵体尾部腫瘍に対する膵体尾部切除では、腫瘍条件などの適応があえば腹腔鏡下手術も行っています。

急性胆嚢炎・胆嚢結石症

胆嚢内の結石による胆石発作や急性胆嚢炎に対しては、胆嚢摘出術を行っています。手術は腹腔鏡手術が標準ですが、胆嚢炎が高度であったり、既往の他治療の影響により胆嚢周囲の癒着が高度であったりした場合は、開腹手術に移行するか もしくは最初から開腹手術を行うことがあります。

急性胆嚢炎は、消化器内科との連携で、保存的治療(絶食・抗生剤投与・ドレナージなど)を行う場合と、緊急手術で対応する場合とがあります。症状出現からの時間経過や諸検査による胆嚢の状態などに応じて、治療方法を検討しています。

肝胆膵領域の手術

肝切除、膵切除はその術式の多くが高難度手術に分類されています。これらの手術は、術後合併症を来たした場合、生命の危機に直面することもあり、慎重かつ正確な手技が要求されます。2011年より日本外科学会でNCD(National Clinical Database)制度が導入され、全国の全ての外科手術が登録制となりました。高難度肝胆膵手術においては、さらに詳細なデータが日本肝胆膵外科学会により毎年監査されています。安心して手術を受けていただける時代になったと言われる現在でも、NCDデータによると肝切除・膵頭十二指腸切除術の在院死亡率がそれぞれ3.0%、1.7%と報告されています。過去7年間の症例で、当科はその数値がそれぞれ0.6%、0%と報告値より下回っており、今後も同様の成績で安全な手術を行えるように努めたいと思っています。

さらに、日本肝胆膵外科学会では2011年より高度技能専門医制度が発足し、高難度手術の経験と実際の手術手技のビデオ審査でその合否が決められるようになりました。当科には私を含めた2人のスタッフが高度技能専門医を取得しており、様々な治療を提供できると考えております。

また、当院は日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設A(平均して年間50例以上の肝胆膵高難度手術を行っている施設)に認定されており、新たな専門医認定のための修練施設としても活動しております。