大腸がんの治療

消化器外科

大腸がんと外科治療

大腸がんは、食の欧米化に伴って本邦で増加傾向です。赤身や加工肉の摂取、飲酒などが危険因子とされ、反対に身体活動量や食物繊維の摂取量の増加などが危険を下げるとされています。一般的にお尻に近いS状結腸や直腸がんは出血や便通異常などを契機として発見されやすく、お尻から遠い上行結腸がんは、症状が出にくく、より進行した状況で発見されることが多いとされます。しかし、いずれの場合にせよ早期のうちは無症状であることがほとんどで、定期的な健康診断(便潜血検査、大腸内視鏡検査)が、早期発見には必須です。 

治療は、病変が表面に留まる場合(粘膜内癌など)は内視鏡治療で根治できますが、粘膜下層の深部に病気が進むと、リンパ節転移の危険性が出てくるために、外科手術が必要になります。手術方法は、小さい傷で行う腹腔鏡手術が主流になってきております。大腸がんは外科手術がとても有効であり、早期の段階での手術でがんを取りきることができた場合には、5年生存率が90%を上回る成績が報告されています。

標準治療と臨床研究の両輪

標準治療より保険適応外の治療の方が最新で有効と思われる方もおられるかもしれません。しかしながら、標準治療とは、膨大な臨床試験の中から客観的に検討された現時点で最新で最良の治療であり、有効である可能性が最も高い治療です。当院は、標準治療を中心に行うことにより、医療の質を担保します。

臨床研究とは、次世代の標準治療となりうる新しい治療を目指すための治療であり、その臨床研究なくして、新たな治療開発はありません。当院では、積極的に臨床研究に取り組んでいます。

日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)、広島臨床腫瘍外科研究グループ(HiSCO)、CIRCULATE-JAPANなどの臨床研究グループに所属しており、最新の医療が提供できるようにしています。

手術後の生活も考慮したからだに優しい手術

大腸の手術は、がんの発生場所に応じて、術後に排便障害、排尿障害が伴うことがあります。特に直腸癌は肛門に近く、術後の排便障害と密接に関係しています。基本的には、人工肛門をさけて、ご自身の肛門からの排便ができる手術を最優先に考えています。そのために、最先端の手術支援ロボットを導入し、より精密に機能を温存する手術を行っています。

しかしながら、肛門に近ければ近いほど、肛門は残っても機能が低下しており、知らないうちに何回も便が漏れるという排便障害を認めることがあります。

ご年齢、全身状態によっては、人工肛門の方が日常生活をしやすい場合もあります。これからの高齢化社会も視野にいれて、患者さんと相談しながら、お一人お一人に最適な手術術式を考えます。

ロボット支援下大腸手術の推移

当院における大腸がん症例数は県内トップレベルです。2018年4月に直腸がんに対する保険適応が認められ、ロボット支援手術は年々増加傾向です。2022年4月に結腸がんにもロボット支援手術の保険適応が広がりました。症例に応じて、今後さらにロボットを使用した最新の体に優しい手術を当院で提供する予定です。

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究極の低侵襲は手術なしの集学的治療?

前節に述べたように、直腸癌の手術は、肛門に近く、術後の排便障害と密接に関係しているため、術後に日常生活に影響を及ぼす重大な排便障害を認める場合もあります。

一番大事なことは、癌を手術で完全に取り除くことなので、切除可能の直腸癌の標準治療は、手術であり、当院も手術を薦めています。しかしながら、最近の研究では、手術前に放射線治療や化学療法を組み合わせる(集学的治療)ことによって、癌の状態によっては、癌がなくなり、手術をしなくてよくなることや、人工肛門になる時期を遅らせることができる可能性が言われています。

当院では、標準治療をすすめていますが、個人の多様性やニーズにそって、選択肢の一つとして患者さん毎に相談しながら、適応を検討していき、究極の低侵襲手術(手術なし)も並行して目指していきます。

ヒトと癌の個性に応じた治療

ヒトにも個性があるように、癌にも個性があることが最近わかってきています。例えば、大腸の右半分と左半分で癌の個性が異なり、抗癌剤の効果が違います。

癌に個性があることがわかっても、治療に応用できなければ、患者さんのメリットにはなりません。幸い、大腸癌は世界でたくさんある癌の一つなので、研究もたくさんあります。当院では、その世界の臨床研究の結果を迅速に反映し、日本人にも安全性、有効性が確立した治療を提供します。

また、患者さん自身の全身状態、年齢、生活環境、副作用の反応によっても抗癌剤の適応がかわってくることより、総合的に判断し、患者さんと癌のそれぞれの個性に応じた最適な治療を提供します。