胃がんの治療

消化器外科

胃がんはわが国において、罹患数では大腸がんに次いで第2位、死亡数は肺がん、大腸がんに次いで第3位と現在でも最も遭遇することの多いがんの一つです。アジア地区は、昔から胃がんの多い地域としてしられていますが、早期発見、がんの原因とされてきたピロリ菌の治療により徐々に減少してきています。

胃がんの治療は、世界の中でも日本は先進的とされ、胃がんの治療のガイドライン1に基づいて、内視鏡治療・外科治療、そして薬物療法(抗がん剤治療)があり、これらを単独あるいは組み合わせて治療を行います。

粘膜がん(早期癌)の多くは内視鏡治療の適応となりますが、粘膜下層(SM)より深い病変など内視鏡治療の適応とならない表在がんや進行がんでは、外科切除が最も有効な治療となります。当科では毎年100例程度の胃がん手術を施行しています。Covid-19感染症により、受診機会が減ったため、発見数も減少し、治療を受ける方も減少していたのですが、Covid-19が落ち着きつつある現在治療を受ける方の数は再び増加してきております。

一般に胃を切除すると、術後の食事量の低下により体重や筋肉量が減少したり、ダンピング症状などで術後のQOLが低下することが少なくありません。そこで私たちは、根治性を損なわない範囲で可能な限り胃を残し、機能を温存する手術を目指しています。具体的には主にステージIの早期がんを対象に、幽門輪(胃の出口)を残してダンピング症状を少なくする幽門保存胃切除や、胃上部のがんでは下部の胃を残し、逆流しないよう工夫を施した噴門側胃切除術を積極的に行っています。(下図参照)

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従来、胃がんに対する手術は開腹手術(お腹を開ける手術)がスタンダードとされてきました。一方でステージI早期胃がんの幽門側胃切除術は現在では多くの施設で傷の小さな腹腔鏡手術が行われています。さらに2022年にStageII、IIIの進行胃癌に対しても、腹腔鏡手術の成績は開腹手術と比べて遜色ないという結果が発表され、より傷の小さい腹腔鏡での手術が増えております。 

*1 胃癌ガイドライン:日本胃癌学会が中心になって作成された治療のためのテキストです。全国どこでも標準的な治療が受けられることを目的として作成されています。
*2 ダンピング症状:胃を切除することで、食物が消化されないままに急速に小腸に流れ込むことで生じる症状です。発汗、嘔気、動悸、血糖低下などがあります。

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        第16回内視鏡外科手術に関するアンケート調査より

当院では2名の内視鏡外科技術認定医(胃領域)が診療に当たり、積極的に腹腔鏡手術を行っています。2018年からは更に繊細な手術が行え、術後合併症が減少することが期待されるロボット支援下腹腔鏡手術も導入し、順調に症例を重ねています。ロボット支援下手術をするには資格が必要ですが、当院では指導医1名、術者1名の計2名体制にて行っております。2022年5月には新病院へ移転し、手術用ロボットも2台に拡充し、2023年3月に胃癌ロボット手術症例は総計100症例を超えて、現在、ロボット支援下胃がん手術症例数は広島県内トップです。患者さんの身体的負担の少ない、腹腔鏡手術やロボット支援手術を今後も推し進めていく予定です。

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さらに当院では、術前より患者さんの体の状態を把握し、胃切除術後管理の特徴的な取り組みとして、患者さんのストレス軽減と早期回復を目指し、術後早期からの飲水、経口補水により点滴を早期に終了するほか、栄養士による栄養指導や手術後の生活にスムーズに戻れるようリハビリを行うなど行う、チーム医療により安全で質の高い医療を提供しています。

一方、切除不能進行胃がんや再発胃がんは薬物療法の適応となります。薬物療法は、抗癌剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害剤を使用し行います。

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2021年末から、免疫チェックポイント阻害剤が抗がん剤との併用で治療の開始時(1次治療)から使用できるようになりました。これまで3次治療以降(HER2陽性胃がんでは4次治療以降)でしか使用できなかった免疫チェックポイント阻害剤を1次治療から使用できる様になったことは、胃がん薬物治療においてとても大きな変化です。3次治療以降の治療戦略の再検討が必要ではありますが、1次治療からより多様な薬物療法が行え、患者さんの状態に合わせた治療が選択可能となりました。当院ではガイドラインを遵守し、適切なタイミングで治療変更を行える様自覚症状など事細かに確認し、多数の薬剤を使い切れる様にしています。また、全国規模で行われるJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)に参加し、最新の治療が受けられるよう研究も進めています。

最後に当院の胃がん治療成績を提示いたします。5年生存率とは、がんの手術後5年間生存している人の割合を示します。胃がんでは術後5年経過して再発などがなければ完治したと考えられています。全国との比較のために「がんの統計 2021」からがん診療連携拠点病院における5年生存率も併せて提示いたします。当院の治療成績はStageI(IA/IB)、II(IIA/IIB)、III(IIIA/IIIB/IIIC)、IVのすべてのStageにおいて5年生存率が全国レベルより良好な成績でした。しかしStageIIIやIVの症例ではまだまだ治療成績の向上が望まれます。今後は外科治療の進歩(正確性向上、低侵襲化)により再発が減少し、薬物療法の進歩も活用し、更に治療成績が向上すると信じております。

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以上のように胃がん治療は日々進歩しており、安佐市民病院では患者さん一人一人に合わせた最新・最善の胃がん治療をご提供しております。