膵臓がんの最近の抗がん剤治療

消化器内科

膵臓がんといえば、最近では元横綱の千代の富士(九重親方)が亡くなられたのが記憶に新しいです。膵臓がんは検査機器が進歩してきた現在でも早期発見が困難な難治がんのひとつです。しかも年々増加傾向にあり、臓器別がん死亡数では肺がん、胃がん、大腸がんに次いで第4位となりました。完治が期待できる治療法としては外科的切除しかありませんが、診断された時点で切除可能なものは2〜3割程度しかなく、また、たとえ切除できたとしても早期に再発することも多くみられます。このことからも膵臓がんの治療法としては化学療法(抗がん剤治療)が大きな位置づけを占めているのですが、そんな化学療法も近年徐々に進歩しつつあります。

長年、切除不能膵臓がんの標準療法とされてきたゲムシタビン(GEM)療法、TS-1R(S1)療法に対し、2013年末にフルオロウラシル・レボホリナート・イリノテカン・オキサリプラチン(FOLFIRINOX)療法、2014年末にはゲムシタビン・アブラキサンR(GEM/nabPTX)療法など、より有効とされる新規治療法が保険承認されたことから、膵臓がんの生存期間のさらなる延長効果が得られるようになりました。臨床試験においてGEM療法の生存期間中央値5.7ヶ月に対してGEM/nabPTX療法で8.5ヶ月、FOLFIRINOX療法で11.1ヶ月と報告されました。ただし、これまでの標準療法よりも骨髄抑制(白血球減少、貧血、血小板減少)や嘔気などの消化器症状、しびれなどの末梢神経障害や脱毛などの副作用が多くみられるので注意が必要となります。特にFOLFIRINOX療法は副作用も強いため、若くて全身状態が良好な患者さん向けの治療といえます。ただ、いずれにせよ切除不能膵臓がんに対する化学療法は、生存期間が半年〜1年以内とまだまだ効果が限られているのが現状です。

また、切除された膵臓がんにおきましては、術後補助化学療法としてGEM療法が長年行われてきました。手術のみ行われた場合の無再発生存期間の中央値5ヶ月に対して、GEM療法を行った場合では11.4か月と報告されたからです。しかし、2013年にはS1療法の無再発生存期間が23.2ヶ月と報告されたことにより、S1療法が標準的な術後補助化学療法となりました。

化学療法の進歩により、切除不能膵臓がんでは従来のGEM療法に加え、GEM/nabPTX療法やFOLFIRINOX療法などの選択肢が増え、切除後膵臓がんではS1療法により長期に再発なく生存できるようになりました。しかし、切除不能膵臓がんへの化学療法の成績はまだ満足できるものではありません。今後、さらに有効な抗がん剤や組み合わせが開発され、生存期間が延びることが期待されます。