C型肝炎を飲み薬で治す時代に

消化器内科

C型肝炎は全世界では約1.5億人の感染者がいると推計され、日本においても治療を受けている患者さんが30〜50万人、治療を受けていないもしくは感染に気付いていない方は100〜120万人いると推計されています。C型肝炎ウイルスに感染すると、多くの人は慢性肝炎という状態になります。多くは無症状ですが、10〜30年かけて徐々に進行し、最終的には肝硬変に至る可能性があります。また、肝炎の進行に伴い、肝がんの発生率も上昇し、肝硬変の患者さんでは年率5〜8%という高い確率で、肝がんを発症する危険性があります。

C型肝炎の治療の基本は、C型肝炎ウイルスを体内から排除し肝炎進行を阻止することです。これまでは、ペグ化インターフェロン(ペグイントロンRもしくはペガシスR)とリバビリン(レベトールRもしくはコぺガスR)の併用治療が中心でした。しかし、このインターフェロンには強い副作用(インフルエンザ様症状、貧血、食欲低下など)がしばしば伴い、余病の多い患者さんや高齢の患者さん、肝硬変が進行して肝機能が低下した患者さんの中には、治療ができないこともありました。また、日本のC型肝炎患者さんの70%はゲノタイプ1b型というウイルスに感染していますが、このタイプはインターフェロン治療の有効性が十分ではなく、患者さん自身の遺伝子のタイプ(IL28B遺伝子多型)などによっては、治癒率が50%以下にまで低下することが分かっています。2011年から、直接作用型抗ウイルス薬と称される一群の内服薬がインターフェロン治療と併用され始めました。テラプレビル(テラビックR)、シメプレビル(ソブリアードR)、バニプレビル(バニヘップR)と、次々に新薬が登場し、治癒率は7割以上に改善していきました。しかし、インターフェロンを用いる治療であることは変わりなく、副作用の点ですべての患者さんに用いることはできませんでした。

2014年になるとこの状況は一変しました。ゲノタイプ1型に対するダクラタスビル(ダクルインザR)・アスナプレビル(スンベプラR)による経口2剤内服治療が開始されると、飲み薬を半年間飲むだけで、80〜90%という高い確率で治癒が得られるようになりました。ただし、この経口2剤治療には制約があり、C型肝炎ウイルスのL31やY93という部分に変異があると、治癒率が大きく低下することが分かっています。そのため、これらの薬剤耐性変異の有無を治療開始前に調べることが一般的になっています。

2015年にゲノタイプ1型に対する新規内服薬として、ソホスブビル・レジパスビル配合錠(ハーボニーR)と、オムビタスビル・パリタプレビル・リトナビル配合錠(ヴィキラックスR)が登場しました。これらは前述の経口2剤治療よりも、3か月という短期間の治療で95%以上の治癒率と報告されており、現在最もよく使われている薬剤です。また、ゲノタイプ2型に対しては、ソホスブビル(ソバルディR)・リバビリン併用内服治療が認可され、ほぼすべてのC型肝炎患者さんに対して内服治療が可能となりました。一般的にこれら内服薬による治療は、インターフェロン治療に比べて格段に副作用が軽微であり、大多数の患者さんが安全に治療を受けられています。

C型肝炎が内服治療だけで高率に治癒できる時代になり、C型肝炎を撲滅できる日が近いと考えられてはいます。しかし、高額の治療費、薬剤耐性ウイルス出現の可能性、ウイルス排除後の肝がんの危険性など、いまだいくつかの課題は残されています。全てのC型肝炎患者さんが治療の恩恵を受け、長生きできるよう、これからも毎日の診療に精進していこうと思います。