手術麻酔

麻酔科医の仕事

【手術前】術前診察を行い、全身状態を把握するとともに手術を受ける患者さんの不安を取り除き、患者さんとコミュニケーションを取って安心して手術に望めるような環境を提供します。麻酔科外来での術前診察時にはビデオ映像でも説明を行っています。

【手術中】絶えず患者さんのそばにいて、麻酔を行いながら血圧や心拍数、体温、呼吸の状態を把握し、安全なで確実な手術が行えるよう全身状態を監視しています。もし、手術中に患者さんの全身状態が悪化しても、迅速に対応し状態を正常に保つよう治療を行います。

【手術後】手術終了時、患者さんの意識を覚醒(目を覚まさせる)させ、通常の意識状態に戻します。同時に手術後の傷の痛みを和らげるための処置を行います。

当科が取り組んでいること

 当院は日本麻酔科学会の認定する麻酔指導病院です。
 年間手術件数の3700例のうち約2600例(全身麻酔・硬膜外麻酔・脊椎麻酔のすべて)を麻酔科が行っています。在院日数短縮に伴い手術件数は増加していますが、術前から術後まで、きめ細かな全身管理を行うことを方針としています。

(1)一人の麻酔医が同時に二つ以上の麻酔をかけるいわゆる「掛け持ち麻酔」は麻酔の質を確実に低下させます。「掛け持ち麻酔」は絶対におこなわず、患者さん一人に必ず1人の麻酔科医がつくよう各科の協力により手術スケジュールを調整しています。

(2)前日の麻酔科責任者による術前診察(全身状態把握)と麻酔担当医による術前回診、それに引き続くカンファレンスにより、スタッフ全員で翌日行われる手術の患者さんについて全身状態や麻酔管理上の問題点を討論しています。

(3)全ての麻酔症例において、日本麻酔学会の勧告で望ましいとされるモニターを装着しています。
 すなわち、心電図、自動血圧計、パルスオキシメータは脊椎麻酔を含む全症例、それに加えて呼気ガスモニター(+麻酔ガスモニター)、体温をすべての全身麻酔症例でモニタリングしています。

(4)不安と苦痛の除去は最も力を入れて取り組んでいるテーマです。  すべての手術について術後疼痛管理を計画し、開胸・開腹手術では硬膜外カテーテルから、携帯型自動注入器を用いて鎮痛薬を注入する術後鎮痛を行っております。硬膜外麻酔を施行しない症例では鎮痛薬の持続静注を行い、PCA(patient Controlled Analgesia:患者さんがコントロールする鎮痛)を行っています。

 手術の安全性だけでなく、快適性を追求する時代に入ったと思わます。どのような大きな手術でも、患者さんに「いつの間に終わったの」と言っていただけるよう、絶えず技術改善に努めております。

このページを閉じる 

 術後鎮痛

快適な術後を提供する麻酔
〜手術後鎮痛の進歩〜

 ある日ある時、体に不調や痛みを感じ、病院に行きました。いろいろと原因を調べた結果、手術が必要ですと宣告されました。そのとき、あなたは何を心配しますか?手術がうまくいくかどうか、その後の傷はどうなるのか、元の元気な体になるのか、心配はつきないと思いますが、なかでも手術に伴うであろう痛みを心配しない人はいないでしょう。
 手術中は当然麻酔が効いているのですから痛くありません。怖いのは麻酔が切れてからの痛みです。ベッドの上でじっとしていたら大丈夫だろうか?息をするのも痛いなんて昔の人はいっていたけどほんとだろうか?ちゃんと痛み止めはしてくれるんだろうか?前に手術した人が痛み止めをしすぎると中毒になるといっていたがどのぐらいの量なら安全なんだろうか?などなど……
 医学の進んだ現在でも、少し前まで術後痛に関してかなりおざなりに考えられていました。「手術をしたんだから痛くて当たり前」、こんな言葉を聞いたことはありませんか?しかし、我慢のできない痛みは放置することはよいことではありません。特に大手術後の痛みは、我慢するには強すぎます。近年、大手術の麻酔を麻酔科が担当するようになってから術後の鎮痛法も大きく変わってきました。その方法や安全性についてご説明しようと思います。
 昭和天皇の手術の時に使われて有名になった、硬膜外麻酔による鎮痛法があります。硬膜外麻酔は,胸部や腹部、足の手術によく使われる麻酔で、背骨と背骨の間からチューブ(直径1mm以下の太さ)を硬膜外という場所に留置し、そこから麻酔薬を注入する方法です。全身麻酔と併用して使用されることが多く、術後引き続いて痛み止めになります。術後は専用の注入器で鎮痛薬を、72時間から96時間ほど 注入します。手術が終了して麻酔から覚めたあとの激痛に効果があり、自動的に痛み止めが注入されるので看護婦さんに言わなくても十分な鎮痛がされます。この鎮痛法を行うようになってから,術後に他の痛み止めを使用することがほとんどなくなりました。もちろん痛みの感じ方は個人差が激しくその対策は一様ではありません。これだけではどうしても足りないという方には必要な痛み止めを補充することもできますし、注入器に薬を追加してもっと長時間の鎮痛をはかることもできます。
 では、硬膜外麻酔ができないような合併症を持っている患者さんはどうなるんでしょうか。これに対しても、当院では静脈内PCA(patient controlled analgesia)という鎮痛法を行っています。患者さんがコントロールする鎮痛という意味です。手術の後、麻酔が覚める頃から患者さんの体格にみあった量に調節した鎮痛薬が、点滴から持続投与されます。もしそれで効果が不十分なときは、ナースコールのようなボタンを自分で押すと自動的に鎮痛薬が注入されます。ボタンによる追加投与の量や間隔はコンピュータ制御されていて過量投与にならないようになっています。こうしてもっとも痛い術後数十時間を誰かの手を煩わせることなく十分な痛み止めができます。
 このように新しい技術や道具を駆使して術後鎮痛を行っていますが、万全なのでしょうか。注入器や機械の故障も起こるかもしれませんし、中には薬が非常に効きにくかったり、逆に効きすぎてしまったりすることだって考えられます。でも大丈夫です。私たち麻酔科はICUや救急患者さんにいつでも対応できるように24時間体制で勤務しています。これと同様に、院内で麻酔科管理で術後鎮痛を行っている患者さんにも対応します。こうした体制が確立しているので、満足いただける快適な術後を提供できるのです。

 上記の鎮痛法を提供できるのは、麻酔科が麻酔を行う必要のある比較的大きな手術の場合で、麻酔科の術前診察時に説明を受けている場合に限ります。

このページを閉じる 

 集中治療

1.集中治療部とは

 集中治療部とは,院内の重症患者さんを一カ所に集め,人工呼吸器や補助心臓,持続血液透析などの人工臓器・高度な医療機器を駆使し,病気と闘っている患者さんを精一杯治療する部門です。24時間体制での治療ですので,医師が常駐し,看護婦さんも通常の病棟よりも多く配置されています。

2.ICUの必要条件

 このような重症患者さんの治療を行うには,設備面・人員配置・医療機器で特別の配慮が必要です。厚生労働省ではICUに必要な施設基準を作成していますが,当院のICUはこの基準に合致しており,特定集中治療室として認定されております。また当院のICUでは日本集中治療医学会により認定された集中治療専門医が部長を務めております。

3.対象疾患

 ICUに入院される患者さんは院内の重症患者さんですから,一般病棟のようにある特定の科の患者さんばかりいるわけではありません。したがって集中治療部は院内の中央部門として運営されています。

 一般的に次のような患者さんがICUに入院されます。
・ 大手術後:開心術,食道腫瘍手術,術前状態の悪い患者さんの開胸・開腹術後
・ 急性呼吸不全,慢性呼吸不全の急性増悪
・ 急性心不全
・ ショック
・ 薬物中毒,ガス中毒など各種の重症中毒
・ 回復の可能性のある意識障害患者,あるいは神経系疾患
・ 重篤な外傷,重症熱傷
・ 重度の酸塩基平衡異常,代謝異常
・ 心肺蘇生後
・ その他種々の臓器障害のため,人工臓器によるサポートが必要なもの

 ICUは「強力かつ集中的な治療によってその効果を期待できる」重症患者さんを対象としています。したがって,死期の迫った末期癌の患者さんや症状の固定した慢性疾患の患者さんは,ICUへの入室対象とはなりません。またICUへの入室は患者さんの希望では決定できません。患者さんの状態を診て,主治医と集中治療部長が協議し入室を決定しています。

4.面会制限

 重症患者さんがいらっしゃるので,ICUのスタッフはつねに感染症に留意しています。面会が多くなると,それだけ感染の機会が増加します。家族の方がずっとおられると,必要な処置ができなかったり,あるいは他の患者さんの入室の際にも支障が生じることがあります。
 このようなことを避けるために,集中治療室では家族の方の面会を制限させて頂いています。どうぞご理解頂きますようお願い致します。

このページを閉じる 

 高次救急医療

1.救急医療体制について

 救急医療体制が層別化されていることはご存じでしょうか?
 救急患者を全て一つの大きな施設で扱っていると,重症の方が来院した際に軽症の方をずっとお待たせする,また逆に軽症の方の診察中に重症の方が悪化するということが生じます。そこで,医療機関を一次(軽症:薬の処方や簡単な処置だけで帰宅可能),二次(中等症:詳しい検査や入院が必要),三次(重症:緊急処置が必要)の三種類に分類し患者さんを重症度別に振り分けることで,患者さん上記のようなにとって不都合が生じないような体制がとられています。
 振り分けは救急隊員により行われます。広島市の救急隊にはすべて常時救急救命士が同乗するように配備されています。救急隊員は,患者さんの側に到着した際にそれぞれの緊急度・重症度を判断し,病状に合った適切な医療機関を選択しています。

2.当院の役割

 三次医療機関とはいわゆる救命救急センターです。広島県では県立広島病院,広島市民病院,国立呉病院の三病院が厚生労働省より救命救急センターに指定されています。当院は二次医療機関として位置づけられています。しかし,当院近辺で生じた緊急を要する救急患者さんを,これらの救命救急センターまで運ぶには,いくら救急車を走らせても30分を要します。さらに北部の地域であればなおさらです。
 当院は広島市北部の中核病院としての機能を担っています。平成12年には約2,000台の救急車を受け入れてます。中にはそのまま歩いて帰れるような患者さんもいらっしゃいますし,逆に突然の心停止で直ちに心肺蘇生を含めた高度な医療の必要な患者さんもいらっしゃいます。このような多数のまた種々様々な救急疾患に対応するために,当院では院内で二次・三次の対応を分けています。二次医療機関だからと緊急度・重症度の高い患者さんの診療ができなければ,地域の中核病院とはいえません。

3.麻酔科医の役割

 なぜ麻酔科医が救急医療?と思われる方が多いのではないでしょうか?
 麻酔科医の大きな仕事は,手術中の痛みと意識をとることです。同時に手術中の血圧・脈拍などの循環動態の管理,輸液・輸血を含めた体液の管理,人工呼吸などの呼吸の管理を行っており,手術中の患者さんの全身状態の管理に長けています。この様な状態の把握や手術中の管理に必要な知識・手技は,重症度・緊急度の高い救急患者さんの治療を行う上で大変役立ちます。これを救急医療に活かさない手はない!というわけで,麻酔科は救急医療に深く関わっています。
 先ほど院内の対応を二次・三次に分けていると書きましたが,麻酔科医は三次医療機関に運ばれるような患者さんを診ています。緊急度が高く時間との勝負ですので,救急車との間にホットラインを設けています。救急隊の現場到着後の患者観察により,緊急度・重症度の高い病態と判断された場合には,ホットラインを通じて情報をやりとりし,患者さんの搬送中の注意事項・処置,患者さんに最も適切な病院選定などを指示しています。
 また患者さんが来院された後は,麻酔科医により速やかに全身状態の評価がなされ,必要な緊急処置を行われます。もちろん麻酔科医だけで全ての治療を完結できるわけではありません。緊急処置に続く原因の精査・手術などの治療には,それぞれ専門的な知識・手技が必要です。当院では各科に待機体制がしかれており,24時間どのような重症度の救急患者さんにも対応できるようになっています。
 そうはいっても最初に述べたとおり,全ての患者さんが当院に集まると,当院の二次病院としての機能が破綻してしまいます。搬送先は救急隊員にお任せ下さい。彼らは常時知識や技術をみがくべく研鑽に努めております。

このページを閉じる